意思の力
2015年12月22日訪問診療
摂食嚥下障害の患者さんを診ているとつくづく感じることがあります。
「思考は現実化する」
私は、毎週月曜日、母校で摂食嚥下障害の臨床研究をしているのですが、
2週間続けて、人間の意志の力を目の当たりにしました。
2週前は、30半ばで脳梗塞で倒れ、
一生、寝たきり・絶食(胃ろう)と医者から宣告された方。
この方、喉にバルーンを入れるというつらいリハビリを、毎日200回もこなしました。
倒れてから4年後の今、食事は何でも口から食べられるようになっています。
歩けはしないものの、電動の車いすで移動できるようになっています。
「口も足もあるのに、バカにするな!」と反骨精神でがんばったそうです。
1時間くらい、この方の話を聞きました。
お世辞にも上品な話し方といえるものではありませんでしたが、
ことばに重みがあり、胸にぐっとくるものがありました。
今週は、同じように脳梗塞で寝たきりの80歳前後の方を初診で診ました。
医者からは「嚥下(ゴックン)の機能はダメだから、食べるのは絶望だ」と言われました。
体重も数ヶ月で80kg台から40kg台まで落ちたそうです(身長180cm)。
見た目にもガリガリに痩せて元気なさそうなのですが、
私たちが行くのを心待ちにしていたようでした。
内視鏡で喉の様子を見ると、食べられないほど悪くはないのです。
本人に伝えると、それはそれはうれしそうにしていました。
かすれた声で「よし、もうひと頑張りだ」と、家族と話していたのがとても印象的でした。
今は栄養を点滴で入れているのですが、
1年後には結構な量の食事ができるだろうと思います。
一方で、治療になかなか乗ってこない患者さんがいます。
暗く、後ろ向きで、難しい顔をしている方は、症状が軽くても良くなりません。
とても残念なことです。
人間の意思の力は偉大です。
考えていること、言っている言葉が人間を作り、現実になります。
私たち医療関係者は、手助けをしたり、近道を教えているだけで、
病気を治すのは、最終的には患者さん本人なのだと思います。